――――そして退院から1ヶ月後。
玄関で靴を履いていると奥から、
心配そうな母の声が聞こえる。
「和彦?
大丈夫?」
「大丈夫」
一言だけ答える。
今日から新しい学校ですべてやり直すんだ。
生まれてから高1の春でこの世からいなくなり、
それまでの自分については全く記憶がない。
作られた、
偽装された記憶のみ。
何度も、何度も、
そう言い聞かせ、
退院して半年をゆっくりと過ごし、
ようやく本当の外の世界に出る。
外見上は全くの人間と変わらない。
食事も同じように摂ることができる。
でも味はわからないし、
栄養分も摂取することはできない。
食事をする、
かたちだけ。
言い換えれば、
人間の
「フリ」
をするだけ。

