江梨は赤ちゃんを抱え、初めの一ヶ月は泣き暮らし二ヶ月目は怒り、三ヶ月目は心が空っぽになり眠れなくなった。

団地住まいは若い江梨に容赦なかった。

辛い辛い3年半を送りカズを待ってから、ついに江梨の親にその事を打ち明けた。

江梨の母親が父に内緒でカズの消息を調べてくれた。

カズは今すぐは帰らないけどいつか戻るし、離婚するつもりはないと言ったが、カズの実家はカズがいなくなって1年と半で打ち明けていたのに、江梨が甲斐性がないからだと責めながら、息子が帰っていないのに江梨を嫁なんだからと無理を強いたし、子供の病気時に保険証が作れない事から金銭的に苦しかったし、江梨はそんな過酷な生活が嫌で調停に申し立てた。

江梨はカズが次々と車等で組んだローンが払えず、仕事で埋めていたが払えなかった。

カズは初めはお金を入れてくれたが、足りなかった。

それで江梨はカードで借金した。

一度はカズにそれを打ち明け何とかしてもらったが、カズが完全に半年行方不明になり収入も無かったし、到底足りないし、生活できないし、江梨は仕方なく夜も働く為交通費を考えて結局町の中心地に引っ越す資金が必要で、もう一度だけ借金した。

その事をずっとカズとカズの実家は責めたてたが、子供と生きて行く為には仕方がなかったのである。

子供の取り合いになったが、結局江梨がカズに、

「私達を愛しているなら子供を病院に行かせて。
私をあなたの家族から自由にして」

そう言った時カズが承諾してくれて、半年の調停は江梨が子供を引き取り終止符を打った。

カズは別れた夜に、

「別れても、俺達は家族だからいつでも頼って来い。
いつか迎えに来るから」

そう言って、子供を真ん中に挟んで抱きあい三人で大泣きした。

江梨は昼の仕事に加えて夜中は3時まで働き、いつしか体を壊して、親の援助も無く、ある日求人情報でみつけたボイスコンパニオンの面接に行った。

行ってみるとアダルトな会話と言う事で抵抗はあったが、38度の熱が3カ月も続き、お米も底をついていたので子供の為に腹をくくって通う事にした。