江梨はある日テレビで小説のコマーシャルを見た。

本になれば、話題になれば伝わるかも知れない。

たとえ本にならなくても、噂に聞いて見てくれるかも知れないとそう思い、命を削って空になるまで書き続けた。
封印された記憶を揺さぶる事で、フラッシュバックにもずいぶん苦しんだ。

夢にも出てきて泣いた。

ケイも不安定になった。

それでも江梨は書かなければならなかった。

いつ消えるかわからない命が終わる前に、ヒロに伝わる事を願い、子供達にも伝える為に自分の思いの全てを言葉に残したかった。

もし間に合わなくて自分が死んでもいつかヒロが見るかも知れないから。