江梨は母に電話をかけた。

実はそのほんの数時間前に、江梨の両親がヒロに会いに来て、江梨を絶対裏切らないようにと頭を下げ、ヒロは固く約束していたのだ。

「まあ!話し合いましょうとこっちが言ってるのに卑怯な!大人げない!

……でもね。もうなるようにしかならないよ。黙って待つしかないよ」

江梨の母はそう言って切った。

まもなくして、ヒロから電話があった。

「一回帰って話し合うから心配しないように」

それだけ言って切れた。

ヒロが実家に着いた頃電話したら、母親が事務的に、

「こっちから電話するから」

と、だけ告げて、それきりヒロは帰して貰えなかった。

連れ去られた時に予想はしていたけれど。

「女は子供ができたら堕ろすのがつとめだろう」

と、言うヒロの母親と、

「金取られるから里子に出すか施設に入れろ。」

と、言うヒロの父親の間で縮こまっているヒロが想像できた。

「みときなさい!こっちは偉い弁護士を立てて離婚させてやるから!」

吐き捨てるように江梨は言われ、電話を切られた。