「婚約?なんの話!?」



慌てていると、クスリと微笑み誘惑するような瞳を向けてきた。



「とぼけないで。もうすぐ、俺と婚約するんだよ。忘れたの?」



こ、婚約!?



あたしがセナくんと?



ナルは、どこに行ったの?



空港に迎えに行って…一緒に、車に乗ったはず。



まさか…夢?



3年という期限は守られず、いつしか時は過ぎ…気づけばかなりの年月が経っていた。



ナルは戻ってこず、残されたあたしは…。



セナくんと?



まさか…。



「どうして、アイツのことばっか考えるんだよ。俺だけを見て欲しいのに…」



「そう言われても。あたしには、ナルしかいないの。お願い、この婚約はなかったことにして」



「そんなの無理だよ。俺、葵のこと離したくないから…ほら、こっち向いて」



否応なしにセナくんに抱きしめられる。



「んっ…やめて」



拒否したいのに力が全然入らない。



「逃げようとしてもダメだよ。葵は、俺だけのモノ」



甘い瞳に捉えられているうちに、もしかしてそうなのかなと思えてくる。



ナルは…戻ってこなかった。



あたしを置いて…清香さんと旅立ったんだ。



きっとふたりは、今頃…。