「全てを捨てて、自由を手に入れる…それってどうなのかしらね」




「過去にお母さんがしたことだよね」




やっと口を開いて発した言葉に、ナルも少し驚いている。




「そうよ。けど、この歳になって…もっと別の方法があったんじゃないかって、思うのよ。

あのときあたしたちは、自分たちのことしか見えてなかった。残してきた人を、いつの間にか巻き込んでいたことにも気づかなかった…」




「そうなの?」




「あたしは父親の顔に泥を塗った、それはしてやったりだったけど…そのせいで何百人もの従業員を解雇することになって、その家族を路頭に迷わせた。姉はあたしとは違って仕事ができたから経営陣になるはずだったのに、あたしのせいで望まない結婚をしたのよ…」




「そんなことが…。それに、おばちゃんは仲の良さそうな夫婦に見えたけど、そうじゃないってこと?」




「幸い、お相手のことは初対面から気に入ったみたいよ。けど、仕事に生きるタイプの人だったから、家庭に入るっていう条件は、きっとすごく辛かったはず」




今はお店を展開したりしているから、その辺は和解できたのかな…。




なんて勝手に想像してみる。




ナルをチラッと見ると、飄々とした顔で話を聞いている。




…きっと、全然聞く気ないよね。