「すごく仲良かったけど、たまたま喧嘩したんやって。
あんまり怒らん穏和な二人やったらしいけど、お互い受験でピリピリしてたらしくてさ。
龍にぃの家におった小百合さんが出てったけど、龍にぃは追いかけへんかった。
数時間後、小百合さんが事故ったって電話で」
「えっ……じゃあ小百合さんは…」
「いや、なんとか意識は取り戻した。二週間後にな。
今でもちゃんと生きてるはずやで」
よかった…
事故で簡単に人が亡くなってしまうことを私はよく知ってる。
だからほんとによかった。
でも、じゃあなんで龍ちゃんは……
「その二週間、龍にぃは付きっきりで。
必死に祈って泣いて、ひどかったってあとで聞いた。
意識戻ったとき、龍にぃほんまに喜んで小百合さんの手を握ったんやけど…」
透くんは苦しい顔をして一呼吸置いた。
「…誰?って、すごい怯えた顔したんやって。
記憶喪失ってやつ。
しかも、龍にぃのことだけ覚えてないらしくて。
それでも、思い出すかもしれないって、また新しい思い出作って行こうって、龍にぃは言うたんやけど。
小百合さんの両親が事故のことも思い出すかもしれないから、もう思い出させるのはやめてくれってさ」
「そんな……」
「小百合さんの前から消えてくれって言われたらしい。
記憶喪失の他に、片足が麻痺して動かないらしくて、龍にぃは責任感じてる。
幸せになっちゃいけないと思ってる」
龍ちゃんは苦しんでる。
5年前のこと今でも夢見てうなされて、涙を流して。
苦しんでるんだ。
