見かねたわたしは
若菜に言ってよ、と
宝積寺にジェスチャーで
うながした。

───精一杯の強がり。


聞こえずとも
若菜に囁く宝積寺の
口の形でわかった。

o k a m o t o
o k u y a m a
はっきりとした分岐点は、
mを見たところだった。

悟った瞬間
わたしは逃げた。
教室の机に突っ伏した。

意外に冷静だった。
それでも、
何か大事なものが
音を立てて
崩れ落ちて行くような
そんな感じがしたんだ。

中学3年、夏。
わたしは人生で初めての
失恋をした。

すでに色褪せていた教室は
もっとモノクロームに見えた。

ああそうか。
ハスタツがいつだか
言っていたっけ。

道徳の授業の時に。
性教育をやろうとして。

「恋はわるいことでは
ありません。
いいことです。

生活をバラ色に
してくれます。

ただし毒にもなります。」