あぁ、またここに戻ってこられるとは…。

俺は今、懐かしい姫の部屋扉の前に立っている。

もうこの際、昔のように『姫』と呼ぶことに決めた。

俺的に、それの方がしっくりくる。


昔のように扉を叩く。

叩く回数で俺って事が分かるはず。

昔、二人で決めたことだった。

何故。

失礼します。と、言えば良いものを。

ということになるのだが。

俺は、慣れ親しんだ者に敬語は使わない主義だ。

それと、二人の秘密的なところが気に入っているから。


「紅羽?」


愛しい声と共に扉が開く。


「入って。」


姫の部屋は、昔と随分変わった。

何というか、姫同様落ち着いた感じになった。


「紅羽っ。」


途端に、背中へ暖かな温もりを感じた。

姫が俺に抱きついてきた。

抱きついて…って、


「姫っ!?」


首をひねって振り向くと、自分の背中に顔をうずくめる姫の姿があった。


あぁ、昔はよくこんなことがあったような…じゃない!!

俺は今、もう少ししたら成人って歳で、姫はまだあどけない13歳。

昔は許されただろうが、今は。

姫も少しは勉強をしているわけだし、俺(使用人)とこういうのは駄目だと分かっている、はず…。


俺も、好きなわけだから、嬉しくないなんてことはないが…。

…駄目なんだ。