夏目くんは箸を置いて、頬杖をついた。私の話をじっくり聞こうとする時のクセだ。
私は、少し息苦しくなって窓に目をやった。チャコール色のベレーを被った自分の顔が24歳という年齢より子どもじみてそこに映る。
3階にあるこの店は通りに面していて、眼を下へ移せば街路樹がまばゆく輝いていた。
季節がもたらす街の美しさと高揚が、私の残酷な仕打ちの罪深さを薄めてくれたらいいのに。
「初めから、気になる人だったの。舘野さんは、話題も少し変わっていて。
女子社員が話すことは、ファッションか恋愛かテレビ、あとのほとんどが職場の愚痴だけど。
舘野さんが話すのは世界のニュースだとか、文学とか芸術だったり、身近な話だとしても薄暗い悪意や批判はないの。
それをさらっと彼女が持ち出すと、ランチタイムの会議室が、浄化される感じがする」
惹かれることに理屈なんか無い、とにかく彼女のすべてか胸の底に触れてしまう。
だけど、言葉にしてこの黄ばんだテーブルに並べなければと私は思っていた。


