テーブルの向かいの夏目くんは、眼鏡を外してセイロをのぞき、小龍包を1つ、箸でつまんでレンゲに載せた。
モスグリーンのVネックセーターから、トリコロールカラーの毛糸編みのネクタイが覗いている。
キュートな小物遣いが彼らしい。
「僕らが別れる必要ない気がするよ。舘野さんは希伊菜(きいな)のことを好きってわけでもないし、派遣の人だから近いうちに契約も終わるよね。
そもそも希伊菜は、彼女に気持ちを打ち明けるつもりあるの?」
すごい、と思った。
彼女である私がレズビアンかもしれない、職場にどうしても気になる女性がいて、だから別れてって言っているのに、夏目くんはこんなに冷静なのだ。
黄ばんだ白壁の店内は狭く、テーブル席が五つあるだけだ。
来る前から予想していた通り、私たち以外に客は誰もいなかった。
台湾人老夫婦が営むこの家庭料理の店は、味は本格的だけれど小綺麗とは言えず、クリスマスイブの夜の客足は悪いはずだ。


