恋人の余韻





夏目くんは、

「別れてからでもいいから、ゆっくり考えてみてよ」と静かに締めくくった。

その一言に少しの余韻が遺った。


ばさりと終わりにできる恋愛もあるだろう。
がむしゃらに相手から遠ざかる別れも。

だけど私と夏目くんのように、恋人だった時間の余韻の中で、少しずつ互いを手放すこともあるのだろう。

「夏目くん、ありがとう」

私は思わずそう言っていた。冷気のためだけじゃなく、鼻の奥がつんとした。

夏目くんは、ただ私の顔をチラリと見ただけで、何も言わなかった。

穏やかな内海のように、夏目くんの眼鏡の奥の瞳は凪いでいた。






(Fin)