「夕希、行くぞ。」
千里はあたしの手を取ると、歩きだした。
あぁ、あんなこと言わなければ良かった。
千里はあたしを1度も見ることなく、どんどんと歩く速度を速めながら前に進む。
互いに何も喋らずにあたしと千里が分かれる駅へと着いた。
あたしは千里と手を離そうとした。
しかし、千里は離すどころかその力を強めて改札口へと向かった。
「千里??あたしはこっちだよ??」
千里の腕を引っ張って、今まで話さなかった千里に話し掛ける。
「分かってる。」
「じゃあ、なんでこっちなの??そっちは千里の家の方だよ??」
「夕希が行きたいって言ったんだろ??」
「えっ…………。」
「夕希がさっき俺に行きたいって言ったんじゃん。行かないの??」
そう言って、千里はあたしの顔を覗きこんできた。
「えっ………あっ………。」
あたしはいきなりの展開に頭がついて行かずに戸惑っていた。
そんなあたしに痺れを切らした千里は…………。
「夕希は俺の家に行きたい??」
そう言って、笑った。
その笑顔はあたしの『嫌いな笑顔』だった。
その笑顔が意味していること。
それは『行けばヤる、行かなければここでサヨナラ』ということ。
また、千里は他の子をこの後に呼んで遊ぶということ。
そんなことが分かっているのに…………あたしは…………。
「千里の家に行きたい………。」
周りの騒音に掻き消されてしまいそうなか細い声で答えた。

