嗚呼、神様。
あたしは貴方に何かしましたか。
至極真っ当にこの人生を生きてきたと思っているのですが、貴方は違うのですね。



バイト先からの帰り道。
あと2日で年が明けてしまう年末。
寒い中悴んだ手を温めながら隣を歩いていた彼が立ち止まった。


何か、思い詰めたような顔をして。


「………どうしたの」


はやく、かえろうよ。
寒いよ、ほら手が冷たくなるじゃんか。


彼は大きく深呼吸をしてあたしを見つめて。


「好き、だ。」


真っ赤に頬を染めて見てるこっちが緊張してしまうくらいにガチガチで。
瞳に色んなモノを乗せて、でもそれでも真っ直ぐにあたしを見つめた。


「こんなこと、言うのも本当はお前に失礼かもしれない。でも、お前がどう思おうと俺が今想うのはお前のことだ。
麻由、ごめん。あのときとお前は変わってない。ただ、俺が何もお前を知らずに……」

「………なんで、」


掠れた声がでた。
彼は言葉を止めてあたしを見ているだろうけど俯いて彼の視線を遮る。


「麻由、」

「今でも」


嗚呼、寒い、痛い。
寒さが痛みに変わってく。
吐き出した溜め息は白くなって、消えていく。


「君のことは好きだよ。でも、もうどうすることも出来ない。あたしは、今貴方との関係をどうこうするつもりもないの。ううん、したくない。子供で悪いけど、あのとき断った貴方の気持ちが変わったところで長続きするなんて思えないの。
だから、今は応えれない。」


例え、あの憧れていたお話のように離れても、離れても、ずっと好いてくれる彼がいたなら。あたしにもそんな人がいてくれたなら。


何度も思って、何度も諦めて、


やっぱり、お姫様と呼ばれるヒロインたちはお伽話のなかだけ。
あたしは脇役。高望みなんてしちゃだめだったの。



そう、彼があたしをずっと好きでいてくれるわけがないのだから。


諦めを、溜め息と共に吐いてあたしは彼をみる。何にも、思えない瞳で。


「ごめんなさい。フられた相手とすぐに付き合える軽い気持ちじゃないの。」


くるり、と彼に背を向けて歩き出す。
走り出したいけど、どうにもできなくて。
足を一歩動かすので精一杯なの。


後ろで、彼が息を吸うのがわかったけど振り返りはしない。


「じゃあ!ずっと、待ってるからっ!お前が……麻由が俺と1から向き合ってくれる日まで待ってるから!!」

「………っ、」


嗚呼、あたしはヒロインにはなれないのに。
なんでかな、君はそんな事言うの……


ぽたり、と涙がおちた。



嬉しい、けど。
ごめんなさい。


あたしは彼を振り返らずに泣きながら歩いた。