女のまやかし人の目撃があった箇所は、1年中氷に閉ざされた場所にも関わらず、年間を通して一度も凍った事の無い湖”アルマフィーズ湖”付近。
 アルマフィーズ湖から一番近いエフェメラル村に滞在、夏の天候の良い日に査察に行く事にした。目的の地域は、真夏と言っても、氷がほんの僅か解け出し、氷の間から地表の岩盤がほんの僅か顔を見せる程度だ。
 夏場は天候も比較的安定し、ブリザード(吹雪)の心配があまり無いと言われているが、突如天候が変わり、命を落とした者も居たという情報もあるので、油断はならない。
 エフェメラル村は、標高はそれ程の高さではないが、スプリング山と呼ばれる山が寒波から村を守り、リリカルド王国最北端ながら、人の住む事の出来る村が形成された。ここからは、石炭が多く採掘される為、石炭採掘の職人が多く住むようになり、鉱山の村が形成された。

 エフェメラル村に数日滞在し、数日天候の安定した日に、レドファラモス王は同行の騎士団を連れて、スプリング山越えを開始した。天候も安定し、非常に穏やかな日で、昼過ぎには目的の場所であるアルマフィーズ湖に到着した。
 レドファラモス王は雪が解け僅かに地表の現れた湖岸に立ち、目を凝らすように遥か遠くの湖の対岸を見た。何の気配も無く、ただ真っ白な雪原が続くばかりだった。
 あまり長居は無用、数時間周辺を見回って異変の無い事を確認して、エフェメラル村に戻ろうとした時だった。僅か数メートル先の湖岸に黒髪の女が佇んでいた。

《第2章 第2話に続く》