リリカルド王国は、王妃(正妃)が世継ぎを儲ける事が出来た場合には、側室を持たない事が多い。幸いにも子宝に恵まれ続け、歴代の王は妻は王妃(正妃)のみという王が続き、いつの間にか後宮殿は無くなり、王妃(正妃)は王宮殿で家族で暮らすことが慣例となっていた。
 レドファラモス王はまだ20歳と言う若さで最愛の王妃を無くした。ラグザンドラ王出産の時、大変な難産で命を落としてしまったのだ。その後、世継ぎに万が一の事があったらと、不安がる政務大臣達や政務官達から連名で何度も「どうか新たな王妃か側妃を……」との請願があったが、頑として受け付けなかった。それだけ亡くなった王妃の事を愛していたからだ。また、後妻を迎えて、愛する王妃の忘れ形見である王子に辛く当られたり、異母兄弟による世継争いなどが、巻き起こる事も避けたかった。また、母親の様に慕うとても有能な良き乳母に恵まれた為、その必要も無しと判断した。
 世継ぎの心配が無くなるまでの間、家臣達は冷や冷やしたが、幸いにもラグザンドラ王が、2人の王子という子宝に恵まれ、いつの間にかそう言う話しは立ち消えてしまった。

 とてつもなく広大な領土の為、ほぼ全領土を査察完了するまでに2年という年月がかかった。最近、初めての孫娘でもある姫君も生まれたとの便りも届いた。姫の名はメイミールアン。今回の査察が終ったら、出来るだけ早く国に戻ろうと思った。すぐにでも戻りたい気持ちであるが、やらなくてはいけない事が残っている。
 最後に残ったのは、1番気掛かりで、国最大の問題点でもある、北の最奥の永久凍土地帯であり、最も危険な無法地域だった。国土と比較すると、ほんの一握り程の大きさだが、まやかし人と呼ばれる、人であって人ではない魔物と人を合わせたような不思議な生き物や、獣人、人を惑わす精霊、黒魔導師など、近寄りがたい招き入れたくない者達の住むダクモンスト・コロニーがあった。
 招かざる者が国土に入って来ぬように、何重にも白魔導師に寄る結界を張らせ、定期的に結界を聖水で清め、今まで大きな問題事も無く済んできたが……。ここ最近、ダクモンスト・コロニーと接する、領土近くの不凍湖付近で女のまやかし人を見たとの報告があり、とても気掛かりだった。