確認もせず給料(店長が銀行に振り込みに行くのが面倒だと言う理由で手渡し制になっている)を、他人に渡した責任はどうなのか問いただすと――…。


「あの女性、何度かこの店に飲みに来ていただろう。それで、いつも君のツケで帰るから、だからてっきり奥さんだと思ったのさ」


深刻な雰囲気を感じ取れないのか、のんびりとした口調で言い、明日のオススメメニューをカラフルな色を使って紙に書いている。


昼間は喫茶店、夜は居酒屋、店内は広く満席だし、年収一億近く稼いでいる噂はマジかもしれない。


なのに、オレの給料どうにかして下さい、と頼むと、暫く間が空き重い空気が漂い窒息しそうで苦しく感じた。


「わかった」

「へ?」


何が解ったの、と唐突過ぎて間の抜けた声が出てしまう。


店長は、レジから売上金を無造作に掴み、確かこんなもん!…とオレの手を掴みその金を押し付けた。


何が起こったのか理解出来ないまま、指先は職業病なのか無意識に札の枚数を数えていた。


残業はない店だから、毎月こんなものかもしれない。