血...血...血。
闇に広がる赤い血の海。
その中央には荒々しいオーラを纏った金髪の青年が蹲る様にして座っていた。
例えるなら『オオカミ』
孤独に佇む一匹狼と言ったところだろうか。


私は狼に近づいた。
足音で狼はこっちの存在に気づく。
言葉こそ発しないが、敵を威嚇するような鋭い目つきで睨んでいる。
目には生気が感じ取れない。
“お前、目が死んでるみたいだな…”
私はそう言いながら狼に近づいた。
狼は威嚇を止めない。
“喧嘩っつうより反抗期だな…かなり派手な”
私は、血に転がった無数の男達に目をやった。
かなり無残にやられている、あまりの惨さに笑みすら毀れて来る。
“……何だよ、お前”
そんな私が気に障ったのか狼は口を開いた、その声は低く冷たい。
“これは喧嘩じゃない…自分の欲を満たしたいだけの我儘だ、我儘で得た満足感なんて一時的に過ぎないんだ”
そう私が言うと狼は、
“なんだと…”
と、眉間に皺を寄せて立ち上がり、私に近づいて来た、視界が遮られる。
流石に凄い威圧感…
例えるなら強風、どんな物でも吹き飛ばしてしまう風。
でも、そんな物に私は動じない。
“どんな我儘でも、意味の無い喧嘩をしても良い理由にはならない、お前のそれは強がりだ、本当の強さじゃ無い”
そう言った瞬間私は胸座を掴まれた。
狼は、片方の手に拳を握り、私の顔めがけて振り下ろした。


...が、私はそれを片手で受け止めもう一方の手で鳩尾を思いきり殴った。
“…ゴホッ”と咳が漏れ、膝から崩れ落ちる。
私は片膝をつき、狼の視線まで体を屈ませると、狼の肩に手を置いた。
顔を見ると、痛みで歪んでいる。
“守りたい物の為に、体張って喧嘩するんだ、自分の為じゃない、仲間の為だ、分かるか?”
私は宥める様に言い、そして微笑んだ。
“探しな、自分が守りたいって思える大切な物を…お前は、強くなれるよ”
そう言って私は狼の頭を優しく叩いた。


あの頃の私は強かった。
守るべき、大切な物があったから…
怖いものなんて無かったし、そんな物を潰してやれる力があった。
そのためなら、この手をどんなに赤く汚く染めても構わなかった、それほど大事だった。
孤独だった私を、引きいれてくれた大切な場所。
守りたいと思った唯一の場所。
だから、昔の私みたいな奴を見ると放って置けなかった。
私を守ってくれた、救ってくれた時みたいに、私も誰かを救いたかった。


でも、そのせいで…私は大事な物を失った…無くしてしまった。
私のせいで…。
私はこの世界から足を洗った…逃げたと言っても間違えじゃないかもしれない。
止めてくれた奴も居た…どちらかと言うと、皆私を引き止めてくれた。
でも、私は帰れない。


ねぇ、もう帰れないけど、もう戻れないけど、
私を忘れないでくれますか。

もう逢えないと思うけど、それでも
仲間と言ってくれますか。