のそりと顔を上げたのは、随分と経ってからだった。

酷い顔だったと思う。見なくてもわかるくらいに。

見上げた先にはハナがいた。

ハナは、わたしとは正反対の顔で、明るい場所へ現れたわたしを出迎えてくれた。

ふたりで向かい合ってしゃがんだまま。また、地面に視線を落としちゃうわたしの指を、ハナの指が掴んで。


「泣きたい? セイちゃん」


ハナが訊く。


「……泣きたくない」

「そっか」


ハナは、ショルダーバッグの中からあのぼろぼろのノートを取り出した。

それを、何かを探すように先頭から1枚1枚とめくっていく。


「俺ね、起きたらこれを見るのが日課なんだ。枕元に置いてて、1日のはじまり、何をするよりも先にこのノートを見てる」


ハナの指先の動きはゆっくりで、でも、止まることはなかった。

時間の流れみたいに、どんなに遅くても確かに進む。


「昨日までの俺は、何をして、何を見て、何に出会って、何を感じたのか」


あるページをめくった先、ハナの指が、ふっと止まった。

「ねえ、セイちゃん」そうしてハナは、そのノートをわたしに見せる。


「ここに連れて行ってよ。今から、ここに行こう」


ハナが指差した先の一文。


『素敵なところを発見。秘密なその場所は、セイちゃんが知っている』


わたしとハナの、秘密の場所。