一瞬、空を見上げるときとはまた違った意味で思考が止まって、わたしは丸く、不思議な群青に光るレンズと、しばらく見つめ合っていた。

しん、ととても長く、でも本当はほんの僅かな時間が過ぎて。

誰。何。と真っ白な頭に疑問が過ぎった頃に、その人の、顔の前に掲げられていたカメラが下ろされた。


こてん、と首を傾げる動作で、ふわりと茶色い髪が揺れた。

子犬みたいな、柔らかな表情の人だった。

きっとわたしと正反対の。


ああ、綺麗な人だなあって。

何を見ても思わなかった、そんな単純なことを、思った。



「はじめまして、こんにちは」


少し低い、でも耳触りのいい声だった。

その人は人懐こそうな顔でわたしに笑って、自然に、離れた距離を詰めてくる。

わたしはその場に座ったまま、返事なんてしないまま、ただ、ゆっくりと近くなる、その人を見上げていた。


「…………」


そんなに高くない背と柔らかな顔つきから、中学生かと思ったけれど、近くで見ればわたしと同じくらいの歳に見えた。

たぶん同じ、高校生だろう。私服でいるけど、大学生とか社会人には、さすがにちょっと見えない。


「ねえ、俺はハナ」


わたしをちょうど見下ろすような場所に立ったところで、その人がすっと右手を伸ばす。


「きみは?」


上を向いた手のひら。

ハナ──と名乗ったその人は、わたしに向かって、それを差し出した。