1日以上前の記憶が、すべて消える。

忘れる、のでは、なく。


「……うそ、だよ。だってわたしのこと憶えてたじゃん」


そうだ。

ハナはわたしのことを憶えていた。

本当に1日だけしか記憶がないなら、一昨日会ったわたしのことを、憶えているわけがない。


『俺、きみのこと憶えてた』


さっき自分で言ったばかりだ。

妙に嬉しそうに、わたしのこと。


「うん、そうだね。憶えてた」


ひょい、と、まだわたしの手にあったアルバムを取って、ハナはペラペラと、ゆっくり1枚ずつページを捲っていく。

隙間なく埋められた写真に映るのは、本当に様々なもの。

風景や、生き物や、人。


「1日前のこと、俺は憶えていられないんだけどね。でも、何もかもが1日経てば全部リセットされちゃうわけじゃないんだよね」


そして捲られていく最後にあるのは、やっぱり、わたしの写真。


「たとえば一昨日食べた夕飯のこと。もし、昨日の時点でアレを食べたなあって思い出していれば、それを思い出してからまた1日、今日までは、そのことを憶えてられる。厳密に言えばそれを食べたことって言うより、それを食べたと思い出したことを憶えてる、って感じなんだけど」

「うん……って、言うと、つまり……」

「つまりね。俺がきみに会ったのは、1日よりももっと前。きみと会ったそのときのこと、俺は思い出せないけれど、きみのことは憶えてた。そう、つまり、なんでかわかる?」


ハナが、小さな子どもに問い掛けるような口調で、わたしの顔を覗きこんだ。