「先輩」

―ピシッ

「あたっ…」


突然秋君にデコピンされた。


「何するの、いきなり!」

「だって先輩さっきから無視するから」


秋君に軽く睨まれる。睨まれているのになんでカッコイイんだろうこの人は。



「ごめんね、気づかなかった」

「この距離で?何か考え事?」


秋君は心配そうに私の顔をのぞき込む。


「ううん、何でもないよ。それより秋君は進んでる?」


秋君のスケッチブックをのぞき込む。


「…俺、才能ないかも」


秋君はおずおずとスケッチブックを私に渡す。


そこにはいびつながらも私の描いた花と同じものが描かれていた。


「でもまだ初めたばかりでしょ?私なんて初めはこれより酷かったんだから」

「先輩が?嘘でしょ、慰めとかいらないから」


あはは…
またまたどこかで聞いた台詞だなぁ。


まさしく菜緒ちゃんと同じ反応だ。


「それが冗談でも慰めでもなくてね…」


ガサガサと鞄をあさって初めて描いた絵を見せる。


「ぶっ!!!」


それを見た瞬間秋君が吹き出した。
それくらい酷いのだ。


「ね?もう恥ずかしい黒歴史だよ」


もう苦笑いしか出ない。
私がここまで上達したのは蛍ちゃんのおかげだ。


少しでもあの人に近づきたかったから…