夜闇ならば無音が似合うが、この部屋は入る前から、ある音が耳に入る。


一匹の虫など毛ほどにも思わないが、それが数千の束になれば、サイレン以上の鳴き声をあげるように、この部屋もまたそれ。


紙すれの音。
表紙裏表紙を失った本から紙へとなった一枚たちが、ぐるぐると地上から天まで廻り続ける。


竜巻の可視化あればこういった形か。甚大なる被害を産み出そう紙の螺旋は、部屋の中枢で停留している。


「メリークリスマス、おばあちゃん」


そんな一室での平常は、やはり違和感あるものだった。


幼い子供が何の躊躇いなく、この部屋に足を踏み入れ、笑顔で本の螺旋を――中にいる“おばあちゃん”に話しかけた。