今夜 君をさらいにいく【完】



「さあねー」


藤本さんが意味深な言い方で曖昧に応えた。

黒崎さんは興味ないといった感じで、食べ物に手を伸ばしている。


その時、思わず2人に見入ってしまっていた私は、藤本さんと目が合ってしまった。

彼女は口にかすかな笑みを浮かべて言った。



「まぁ確かにキスはした仲かな」



『お~!』っと、周りの人達が騒ぎ出す。

胸が苦しくなる。やっぱり2人はそういう仲だったんだ。



「恵里香、いい加減にしろよ」


「あら、本当の事じゃない」



少し怒り口調で言う黒崎さんをしり目に、藤本さんはグビグビとビールを飲んでいる。


私もたまらなくなって、ビールを一気飲みした。

それを見ていた三条君が驚く。



「そんなに一気に飲んで大丈夫っすか!?」


「大丈夫大丈夫!次!スパークリングワイン頼んで!」


ヤケになりながらも、私は次々にワインを飲みほした。


5杯目を飲もうとした時、藤本さんが私達の目の前に移動してきた。

他の人達もみんなそれぞれ席を立ったり、移動して飲んでいたので、私の目の前の人もいなくなっていたのだ。