「いや、大したことではないんだ」
そう言い、不敵な笑みを浮かべてセンターを出ていく。
桜井は可愛いが、部長の好みのタイプとは違うはずだ。それに部長とあいつが今まで話す機会なんて、まずなかっただろう。
少し部長の事が気になりながらも、俺はパソコンに向かった。
12月の冷たい北風が、頬に突き刺ささった。
19時ともなると外は真っ暗で、帰路を急ぐサラリーマンやOLで駅周辺は混雑している。
その間を足早に通り抜け、駅近くにある居酒屋に入った。
店内に入った瞬間、体全体が暖かくなり、ふんわりと湯気が漂うおでんや、焼き鳥の匂いで食欲がそそられた。
店員に飯田先輩の名前を告げると、二階に通された。駅前のリーズナブルな価格の居酒屋ともあって、多くの人でにぎわっている。
一番奥の座敷に通されると、すでに飯田先輩が座っていた。
「おお、お疲れさん」
「遅くなってすみません」
俺が座るのと同時に、店員が注文を聞きに来た。
「生でいいか?」
「はい」
「じゃあ生二つにおでんと、焼き鳥の盛り合わせ、ホタルイカの沖漬けにタラの芽の天ぷらも」
愛想良く店員が会釈をして、個室の扉を閉めた。



