今夜 君をさらいにいく【完】



センターに戻ると、少し機嫌が悪そうな部長が俺の椅子に座っていた。



「お待たせしました」


「ああー・・・教育マニュアルの見直しの件だが・・・よくできていたよ。あれでいこうと思う」


「そうですか、ありがとうございます」


「それからこの前私が企画部に出した案件、佐々木にボツだと言われてしまったよ。私としては納得いかなくてねぇ、黒崎君だってそう思うだろ!?」


「ええ、・・・悪くないとは思いますが、コスト面で少し問題あるかと思います」




少し、ではなくかなりなのだが。


この部長の機嫌をそこねると、かなり面倒になる。ただでさえ、あまり機嫌がよくなさそうだ。


企画部の事は企画部に任せておけばいいんだ。自分の仕事もまともにできないくせに・・・




すると部長が少しむくれた顔つきでゆっくりと立ち上がり、センター内を見回した。

まるで誰かを探しているように。




「誰かお探しですか?」


と尋ねると


「・・・桜井さんは今日休みなのか?」


と、まさかの部長の口から桜井の名前が飛び出してきた。



「桜井は休みですが・・・何かあるのでしたら俺が伝えておきますよ」



なるべく部長と接触してほしくない。