顔が離れるのと同時に 私はさっと下を向いて 何事も見なかった振りを

したものだ

あの頃は ふたりとも可愛かったよな 

手を繋いで川原を歩いたり 時には私を先に走らせて 

ふたりで追いかけてくれたり

私もまだ若かったから 一緒に走り回って楽しかった


「バロン 見ちゃダメ」 って言われなくなった頃 ふたりは私の目も気にせず

くっついてたな

こっちも慣れて そんなのを見ても なんとも思わなくなっていたっけ

私は ふたりの記念すべき日も一緒だった



『藍が卒業したら 僕のところにおいで バロンも一緒に』


『おいでって それって どういうこと?……まさか……』


『うーん こんな言い方じゃ わかりにくいね ごめん 言い直すよ 

僕と結婚してほしい』


『わぁ……うん あっ はい お願いします』



瑛がホッとした顔をしてから 藍をギュッと抱きしめた

藍をとられるのは寂しいけど 瑛ならいいか とそんなことを思った日だった


それなのに 長谷川のお父さんは ふたりのことを反対したらしい

藍が散歩しながら泣いてたんだ

「バロン お父さんに反対されちゃった 瑛さんのどこがいけないのかな 

ねぇわかる?」 

なんて聞かれても 私にわかるはずもない

可哀想だったが 私の身ではどうにもならなくて そばにいるしかできなかった

私は藍に体を寄せて 体温を伝えた

藍もわかってくれたのか 私を抱きしめてくれた


その二年後 瑛と結婚するときに 藍と一緒に行くはずだったのに 

長谷川のお父さんに 「バロンはおいていけ」って言われて家に残った

お前までいなくなったら寂しいじゃないか……と あとでお父さんが言ってた


藍は実家に帰ってくると 真っ先に私のところに来て抱きしめてくれた

結婚したあと生まれた私の子どもたちも 藍にすぐなついた

そして 藍の息子の渉にとって 子犬たちは格好の遊び相手だった

その中の1匹をもらいたいと瑛が言ったそうだが 長谷川のお父さんが 

「親と引き離すのはかわいそうだ」 と断ったそうだ

藍のことを連れて行った瑛さんが 気に入らなかったんでしょう と

長谷川のお母さんは笑ってたがね