足をバタバタさせて ギャハハハって笑ってたら 龍おじさんがやってきて

「おまえら いつまでスキンシップしてんだぁ?」 って言った

いいじゃん 余計なお世話だよ って心で思ってたら パパが

「いいんだよ 余計なお世話だ」 って言ったから すっごくおかしかった

あまりにもおかしくてゲラゲラ笑ってたら 龍おじさんも笑い出した

そのあと真面目な顔になって 「来月 どうする?」 って聞いた



「予定通りだ お前は?」


「あぁ 大丈夫だ 妹の命日くらい仕事を休むよ」



パパが そうか って言ってから僕を膝からおろすと 僕にグラスを二つ持って

くるように言った

龍おじさんが持ってきたお酒を飲むらしい

おじさんは僕にもドリンクを持ってきてくれていた

初めて聞く名前の飲み物で ラベルにはジンジャーエールって書かれてて 

なんかお酒っぽい名前だなと思った


パパたちと同じようにグラスに氷を入れて ジンジャーエールをつぐと 

シュワシュワっと音がしてサイダーみたいになった

味は甘い薬みたいだったけど これが大人の味ってヤツかもしれない

”変な味” って思いながら バロンの背中にもたれかかって 

結局全部飲んじゃったけどね

バロンっていうのは 龍おじさんの犬で 人間の歳だと80歳くらいの犬で 

僕のママが大事にしてた犬だってパパに聞いたことがある



僕の家にはママはいない

僕が4歳のときに交通事故で死んだ 


その日 幼稚園のお迎えには華音おばちゃんがきた

おばちゃんちの一樹 (いつき) と一緒に帰ったから良く覚えてる

華音おばちゃんの仕事が忙しいときは ママが一樹と僕を一緒に連れて

帰ることはあったけど ママが迎えに来ないってのは初めてだった


タクシーに乗ってて事故に巻き込まれたんだって

パパは どんなことがあっても絶対にタクシーに乗らない

遠くに行ったとき バスが来なくてバス停で待ってたら タクシーが止まって

「バスが来るのは一時間後だよ」 って運転手さんが教えてくれたけど 

パパは 「そうですか」 って言って笑っただけだった


パパがタクシーに乗らないのは きっとママのことがあったからだと思う

だから僕も乗らない

これからも ずっと先も 絶対……







「マーヤ ちょっとそこをあけてくれないか」


”えぇ いいわ……” 


「ありがとう マーヤ 助かったよ」


”いいえ そんなことないわ”



私は椅子から飛び降りて 先生の言うことに従った

この椅子は 先生の奥さんが良く座っていた椅子なんだって


仕事が一段落すると 瑛先生は椅子に座ってコーヒーを飲む

ブツブツと ひとりごと言っているときもある

きっと 奥さんの藍さんと話をしているのかもね


そのときの先生の顔って ちょっと寂しそうなの

慰めてあげたくて 先生の顔をじっと見ていたら



「マーヤ ここにおいで」



膝の上を ポンポンと軽く叩いた

私は精一杯の笑顔を見せて 先生の膝に飛び乗った