「マーヤちゃん もういいわよ」


”深澤さん 帰ったのね”


「あの方熱心ね なんにでも一生懸命取り組まれて 

お仕事もキャリアでいらっしゃるから お忙しいでしょうに」


”ホント 熱心なのよね”


「このところ とても綺麗になられたわ もともとお綺麗なのに 

ここに初めていらっしゃった頃は あまりお洒落もなさらなかったわね 

地味なお色のスーツばかり お化粧も口紅ぐらいだったのに

それが 最近の深澤さん キラキラとして可愛らしくて 恋……かしら」


”あっ 私も思うわ 絶対にそうよ”


私は林さんの言葉に そうよ と返事をするように首の鈴をチリンと鳴らした



「あら マーヤちゃんもそう思う? うふふ……きっと そうでしょうね」


「きっとなにですか? 林さん 彼女のこと何か気になるんですか?」


「いえ あらすみません 気がつきませんで お茶をお持ちいたしますね」


「林さん ごまかしたってダメですよ 僕の質問に答えてませんよ」


「いえね 深澤さん このところ綺麗になられたから 

どなたかお好きな方がいらっしゃるのかしら なんて思っただけです 

すみません こんなこと申し上げて」


「珍しいですね 林さんがそんなことを言うなんて 

でも彼女ならそうだろうな きっと誰かいるでしょう」



先生って女心がわからないわね

林さんは そんなことを言いたかったんじゃないわ

だって 深澤さん 毎週毎週通ってくるんだもの 

誰のために綺麗になったのか 私にだってわかることなのに

ホント 先生は鈍いわね



出窓から外を見ると 深澤さんが車の前で誰かと立ち話をしているのが見えた

あの後姿は公民館講座の世話役の三木さんだ 

三木さんって苦手 話し出したら止まらないんだもの

ほら 深澤さんだって帰るきっかけを失ってるわ


一緒に出窓から外をうかがっていた林さんが あらあら深澤さんが大変だわ 

といいながら 玄関に三木さんを迎えに行った

ようやく三木さんから解放された深澤さんは 大きなため息をついて 

先生の部屋をじっと見ている


やっぱりね…… 

あの人 先生のこと 好きなのね

私にはわかるの 瑛先生を好きな人のこと

だって私も 瑛先生が大好きなんだもの