暫く経子の腕の中で噎び泣いていた重盛は、最後に一言、静かに言った。 「…っなれぬ。私は、父上には…なれぬ……」 (――!!……殿…なんてお労しいこと…) もう、重盛が苦しむ姿は見たくない。 だけど、顔を背けてはならない。 (貴方様のお苦しみ、経子が少しでもお軽くして差し上げとうございます……) 二人はそのまま静かに泣き続けた。 ――これが、後に殿下乗合事件と呼ばれる騒動であった。