物心ついたころから、ふたりは一緒だった。

すみれの母と少年の母は俗にいうママ友であり、ふたりはよく一緒に遊んでいた。

少年はもともと活発な方ではなかったため、女の子のすみれの遊びに付き合うことは苦痛ではなかった。

すみれは愛情深く夢見がちな、人形が好きな女の子だった。たくさん持っているぬいぐるみに名前をつけ、自分の子供のようにかわいがっていた。

母親たちの談笑する声を聞きながら、ぬいぐるみで遊んだ幼き日。
すみれの優しげな笑顔は今でも覚えている。

いくつになっても、大人になっても、その笑顔を見ることができると、そう信じていた。
あの日、すみれの一家が事故に遭った時までは。


うだるような暑さがつづく、中1の夏の休日だった。
すみれの一家は近くの原っぱにピクニックに出かけ、その帰り道、アル中の運転する大型トラックにひき逃げされた。

この事故で生きのこったのは、間一髪避けることのできたすみれだけだった。

だが、彼女は見てしまった。
愛する母が、父が、弟が。
グチャグチャのひき肉に変わる、その瞬間を。

肉親の死は、もともと愛情深かった少女の心に、二度と消えない傷跡を残したのだった。