「大翔は?どこかへ行くの?」
「ああ、俺は遅い昼休憩」
そう言って、大翔は苦笑いをした。
「昼休憩って、もう夕方遅いのに。毎日こんな感じなの?」
「そうなんだよ。どうしても仕事柄。まあ、仕方ないよな」
凄い…。
こんなに頑張ってるんだ。
「じゃあ、ゆっくり休憩してね」
そんな中でも、私に声をかけてくれたのが嬉しい。
小さく手を振りながらも、どこか離れがたくて、足が進まないでいる。
すると、大翔がぎこちなく言ってきたのだった。
「由衣…、さっき貰った名刺の連絡先、あれはプライベートの携帯?」
「う、ううん。会社の。プライベートは別であるの」
「そっか…」
そう言って黙った大翔は、それ以上何も言わない。
「ねえ…、大翔の連絡先も違うんだよね?名刺とは…」
「あ、ああ。番号自体も、由衣と付き合っていた頃とは変えてるから」
そうなんだ…。
別れて以来、連絡は取っていないから知らなかった。
もちろん、メモリからは消しているけれど、番号は変えていたんだ。
そう思うと、確実に二年という月日は経ったんだと寂しさが募る。
私のせいなのに。
大翔と別れる事になったのは、自分自身のせいなのに…。
寂しいと思うなんて、虫が良すぎる。
ぎこちない空気が流れる中、大翔がそれを壊すかの様に言ったのだった。
「由衣、もし良ければ連絡先を教えてくれないか?」
「え?」
「嫌ならいい。遠慮せず、そう言ってくれたらいいから」
思わぬ言葉に、驚きとともに胸が締め付けられる感覚を覚えた。
もう一度、大翔と繋がれる?
もう一度…。
「うん。いいよ。大翔の連絡先も教えてね」
気が付いたら私は、そう答えていて、大翔もようやく笑顔になった。
「ありがとう、由衣。しつこく連絡はしないから」
冗談めかして言う大翔に、こっちもつられて笑ってしまう。
また当たり前に聞けれるんだ。
大翔の声を…。
それがとても嬉しくて、聡士の存在がすっかり頭から抜けてしまっていた。

