静かで肌寒い書庫のはずなのに、ときめく胸のせいで暑く感じる。

ほんの少し見つめ合った後、聡士の顔がゆっくりと近付いてきた。

そして目を閉じた時、唇が重なり合う。

昨日は気付かなかったけれど、キスの音ってこんなに響くものだったんだ。

キスをしながら、痛いくらいに、聡士は私を抱きしめる。

いつの間にか私も、その背中に手を回していた。

離せない唇に、時間が止まってしまえばいいのに…、そう思ってしまう。

「由衣、今夜も会いたい」

ゆっくりと唇を離した聡士が、優しくそう言った。

「今夜…?」

頭が少しボーッとする中で、ゆうべの出来事が脳裏をかすめる。

聡士を好きなわけじゃない。

きっと、それは彼も同じ。

だけど、お互い求めてしまうのはなぜ?

私たちは、何を求めているのだろう。

「うん、いいよ…」

私の返事に、聡士はさらに腕の力を強めた。

「じゃあ、今夜は俺の家へ来いよ」

「聡士の家?」

「ああ、その方がゆっくりできる」

小さく頷いた私は、聡士の胸に顔を埋めた。

相変わらず、大翔と同じ香り…。

心の中にある大翔の残像を抱えたまま、私は今夜も聡士と過ごす。

それに罪悪感が無いわけじゃない。

だけど、聡士だって何かを埋めたいんでしょ?

私で、何かを埋めようとしている。

それが分かるから、おあいこ…。

「由衣、戻る前にもう一度キスをしよう」

「うん」

抱きしめ合いながら、何度も何度も絡み合う唇に、確かめ合える気持ちなんてない。

だけど、ひとつだけ分かる事…。

「気持ちいい…聡士」

ただ、それだけだった。