聡士は、私が気付いてからもパイプイスに座ったままだ。
外の景色をボーッと眺めている。
そんな聡士に、ベッドで横になりながら声をかけた。
「聡士、何で私の気持ちを知っているの?」
「ん?何だよ急に」
ゆっくり振り返った聡士は、私を優しい顔で見つめた。
「プロジェクトの事とか、体調の事とか…」
「分かるよ。ていうか、由衣は分かり易い性格をしてる」
「分かり易いって、そんなに顔に出るの?」
こういう会話をしていると、琉二を思い出してしまう。
二人は本当に似た者同士だ。
「前にも言ったろ?お前は見える部分しか見ないから、ちょっと考えれば分かるんだよ」
「何よそれ…」
嫌味なんだか優しさなんだか分からない。
こうやって、いまだに聡士が分からないっていう事は、言われる通り、見える部分しか見ていないからなのか。
まあ、いいや。
まだ朦朧とする頭で、難しい事を考えるのはやめよう。
「それより聡士、私は大丈夫だからもう帰って」
さすがに、聡士まで仕事を休ませてしまって申し訳ない。
すると、聡士は小さく首を横に振ったのだった。
「夕方には退院だろ?一緒に帰ろうぜ」
「え?でも…」
「いいから。さすがに一人にするのは心配だし、今夜も何もしないって約束するから、俺の家に帰ろう由衣」
「うん…」
結局、こうやって聡士に甘えてばかりなんだから、一番進歩がないのは私だ。
「なあ由衣。俺のアメリカ行き、夏より前になりそうなんだ」
「えっ?そうなの?」
言われてみれば、異動は3月と6月だ。
海外勤務だから夏頃になると思っていたけれど…。
それじゃ、国内の異動と同じ時期になるって事なの?
「だからさ、由衣がこれで最後って言うなら、最後くらいお互い本当の気持ちを言わないか?」
「本当の気持ち?」
「そう。もちろん、元気になってからでいい。しばらくは休んで、元気になったら教えてくれよ。由衣の本当の気持ちを。俺も、必ず話すから」
聡士の思わぬ言葉に、驚くばかりだ。
だけど、真剣さが伝わってくるだけに拒否するなんて出来ない。
「うん。分かった」
”最後”なら、素直になろう。
アメリカへ行ってしまったら、もう話すら出来ないのだから。
そして、今回の事で確信した気持ちもある。
それを伝えて、すっきりして、そして聡士ともさようならをする。
そうしよう。

