聡士が、私とただ体だけの関係を続けたかったわけではないのが、”あの日”から分かった。

”悪態”をついた私に、聡士は相当頭にきたのか、今日まで仕事以外の話をしてこなかったから。

やっぱり切ないけれど、それで良かったのだと思う。

そして今日は、きっと最初で最後になる聡士と一緒の仕事、新車のプロジェクトの日だ。

大翔とも話をして以来、一度も会っていない。

昨日、今日の事をよろしくと、業務連絡だけはしておいたけれど…。

「佐倉、そろそろホテルに行こうぜ」

「うん…」

プロジェクトは関係会社や下請け会社なども招待する関係から、夕方から夜にかけて行うことになっている。

夜からは、ホテル側から出る立食パーティーで、社長も出席予定の大々的なものになる予定だ。

そんな大事な日だというのに…。

今日の私は絶不調。

どうやら、風邪を引いたみたいで熱ぽい。

昼休憩に市販の風邪薬を飲んだけれど、時間が経つにつれて体のだるさが増すようだ。

「なあ、お前顔色悪くないか?」

異変に気付いた聡士が、心配そうに声をかけてきた。

「ううん。大丈夫よ」

いけない。

周りに気づかれてはいけない。

今日は、何より大事な日なのだから。

後、数時間くらいの事。

気力で乗り越えて、明日は会社を休もう。

そう奮い立たせて、カバンを取ろうとした時、よろめいた私を聡士がとっさに支えてくれた。

「本当に大丈夫かよ?…てか、お前体が熱くないか?」

ヤバイ、ばれちゃう。

「ありがとう。大丈夫よ。気のせいだってば」

過剰に心配されたくなくて、平気な振りをしてカバンを肩にかける。

「行こう、嶋谷くん」

「あ、ああ」

聡士には、きっと気付かれただろうけれど、こちらがとぼけた振りをしていれば大丈夫だわ。

クラクラする頭で歩き出した足元は、思った以上に宙に浮く感じだ。

でも今日は、弱音を吐くわけにはいかない。

大事なプロジェクトの日。

これが成功すれば、聡士には大きなプラスになるのだから。

私が聡士にしてあげられる数少ない協力は、この仕事なのだから…。