「…お母様…?」

ガチャ、とドアノブを廻し中を覗くと、ひとりの女性が此方を見詰めていた。

「おかえりなさい」

女性は優しく微笑み自分の傍へと手招きする。

「お母様…っ!!」

ぎゅっ、と抱き着き女性の胸に顔を埋める。

「…また、だめだったのね…」

喧嘩で負けた子どもを諭すようにお母様は言う。

「お母様、やっぱり私には出来ないです。……私なんか、……」

涙混じりに言うと今まで我慢してきた思いが爆発した。

「……辛い思いさせてごめんなさいね…。…でも、私はもう仕事が出来ない体になってしまったから……」

泣きじゃくる私にお母様は優しく語りかける。

「…聖母マリアさまの生まれ変わりである私達の家系しか、この仕事は出来ないの。貴方がしてくれないとこの先、クリスマスは永遠に冒涜され続けるわ」

それは、この仕事を始めてからずっと言われてきたことだ。

私のお母様の家系は、代々聖母マリアさまの生まれ変わりでありその高貴な血縁で子孫を繁栄してきた。

生まれ変わりである私達に課せられた使命は唯ひとつ。


「クリスマスを冒涜するものを『浄化(カタルシス)』せよ」


クリスマスの夜、私達はクリスマスを穢すもの達を制裁する。

……この場で言う『制裁』とは、簡単に言えば『処刑』だ。

私は今までその『浄化』をしに行っていたのだが、毎年のことながら5人目で吐き気を催し、帰ってきた。

「…ごめんなさいお母様…」

お母様は頭を撫でる手を止め、視線を合わせる。

「…貴方が無事ならいいの。でも、今年の仕事の半分も終わってないわよ?」

つ、と目を細め、射抜くように此方を見詰めるお母様。

どうするの?、視線で問われ俯きそうになる視線を無理矢理合わせる。

「……ちゃんと、…ちゃんとやってきます。クリスマスを冒涜するもの達を、浄化させてきます。」

まだ少し震える声で、それでも力強く言うとお母様は満足そうに笑んだ。