「そう。で、でも勝手に入ったら怒られるって。早く出よう?」
目を合わさずに扉へと向かおうとする琴さんに、もう一度問いかけた。
「琴さんこそ、こんなとこで何してるの?」
「……バイト」
「……ふーん。バイト、ね」
もう一度、ネームプレートを見る。
「この年でバイトだなんて馬鹿だと思ってる…」
「藤崎 琴っての?」
「ふぇ?」
琴さんの言葉を遮り、ネームプレートを指差した。
俺の視線を追いかけ、
「あぁ。藤崎……琴子」
「琴子って言うんだ?」
「本名はね。でも昔から“琴”って呼ばれてたから」
そう言うと、また俯いてしまう。
それを聞いて。
俺、本当に琴さんの事何も知らなかったんだと思い知らされたみたいだった。

