「出来るだけ、やってみるから…逃げなさい、安全な場所…って、ないかも知れないけど…」



 凛々子は子供の背中を押しやりながら言った。

 子供は走っていく。

 辺りはまだ混乱が続いている。

 一筋の風が、凛々子の前髪を揺らした。

 凛々子は、風が吹いてきた方に視線を投げる。

 だがさっきまでと少しだけ、辺りの雰囲気が変わっていた。

 テルラの人々の手には、武器らしいものが握られている。

 棒の切れはしのようなものや、レオンが持っていたナイフのようなもの。

 それを持ち、アルマと対峙している。

 少し視界が開け、凛々子は、右手の向こう側に一本の木が生えているのを見つけた。

 そして、その近くでアルマと戦っているレオンの姿も。

 凛々子はそっちに向かって走り出す。

 走りながらも、凛々子は意識を集中させて、荒らされた大地を蘇らせる。

 壊されても、壊されても。

 また、創ればいい。

 一人じゃ、無理かも知れないけど。

 皆で力を合わせたら、きっと出来る。



「レオン!!」



 もう少しでレオンの側に行ける、そう思った時。

 凛々子の膝に、何故か力が入らなくなった。

 前のめりに倒れそうになった時、レオンが凛々子の身体を支える。



「凛々子!!」



 全身の体重をレオンに預けながら、あれ、と、凛々子は思う。

 自分の身体が、自分のものじゃないみたいだ。

 脳から出す指令が、全く身体に伝わらない。

 もっと動きたいのに。

 もっと、レオンを助けたいのに。

 もっと教えたいのに。

 この世界の人達に、創造する、ということを。



「バカ、無茶しすぎなんだよ!!」



 ぐるぐると回る視界の隅には、アルマに立ち向かうテルラの人々が映っていた。

 良かった、テルラの人達は、動いてくれている。

 ーー…それに、何よりも。



「レオンも、無事で…良かっ…」

「本当にバカだな、オマエ」



 出会った時は本当にムッとしたこの口調も、今は、好きだ。

 凛々子は、レオンに微笑みかける。



「やってみるもんでしょ、レオン」

「もういい。もういいから…あんまり無茶、すんなよ…」



 ぎゅっと凛々子を抱き締めて、レオンは言った。

 その温かさと、テルラの人々が力を合わせてアルマに立ち向かっているのを感じて、凛々子は目を細める。

 凛々子とレオンの姿を見て、テルラの人々は動いたのだ。

 ちゃんと、自分達の世界を、自分達で守る為に。