テルラの人々は、凛々子の叫びを聞いても、相変わらずざわつきながらアルマから逃げようと右往左往している。

 そんなテルラの人間達に、凛々子は無性に腹が立つ。



「何だか、自分を見てるみたい…!」



 ――…でも。

 あたしは、逃げないと決めた。

 もう、決めたんだ。

 ぎゅっと押さえ付けられているようにガンガンする頭痛を振り払うように、凛々子は頭を振った。

 そして、また意識を集中させる。



「壊れたら、創ればいいのよ!」



 アルマが壊した大地が、また甦る。

 辺りはアルマとテルラの人間達が入り乱れて、騒然としていた。

 そんな中、凛々子は人混みを掻き分けてレオンの姿を探す。

 だが混乱の中で、レオンの姿を見つけることは出来なかった。

 逃げ惑うテルラの人々と、それに襲い掛かかろうとするアルマ。

 レオンを探して見渡した視界に入ったのは、転んで立ち上がれない子供だった。



「……!?」



 子供のすぐ近くに、アルマが迫っている。

 危ない、と思った時には、身体が動いていた。

 子供に覆い被さるように、凛々子は蹲る。

 アルマの手が伸びる。

 その瞬間、1人のテルラの人間が、凛々子と子供の前に両手を広げて立ちはだかった。

 声も出せずに、凛々子は目を見開き、その場から動けずにいた。

 アルマに触れられた、凛々子達を庇ったテルラの人間は、霧状になって姿を消した。



「なっ…!?」



 凛々子の腕の中でその光景を見ていた子供は、悲しげな呻き声を出しながら、たったさっきまで彼女がいたその空間に、小さな手を伸ばしている。

 そのつぶらな瞳から、涙が溢れていた。



「まさか…お母さん、だったの…?」



 凛々子が言うと、子供は一層激しく泣き叫んだ。

 ちゃんと、あるじゃないか。

 子供を抱き締め、奥歯をギリギリと噛みながら、凛々子は思う。

 今まで見てきたテルラの人々は、何処までも無気力で、何処までも無表情だったのに。

 こうやって、ちゃんと、人間らしい感情があるじゃないか。

 凛々子は泣きじゃくる子供を抱き締めて、迫ってくるアルマを睨み付ける。



「あんた達も」



 あまりの怒りに、ざわっ、と、凛々子の全身が総毛立つ。



「あんた達も、人間の大事なものを、壊すんじゃないわよっ!!」



 凛々子の身体を中心に、突風が巻き起こる。

 次の瞬間、周りにいたアルマが消えた。

 凛々子は息を切らしながら、ふらふらと、立ち上がる。