まるでこっちを見ないレオンをぼんやりと見つめながら、凛々子は思う。

 ……あの時、サヤカに、何て言ったんだっけ…。

 凛々子はゆっくりと、いつもの席…レオンが座っている場所に、歩み寄る。

 あの時、真っ先に思ったのは。

 もしも、サヤカに嫌われたら。

 サヤカが二度と、こうやって会ってくれなくなったら。

 それを考えたら怖くなり、そして、甘えているだけだった自分に気がついた。

 絆で繋がっている。

 サヤカはそう言ってくれたが、絆とは、お互いが手を差し伸べなければ、結ばれるモノではない。

 自分はずっと、差し伸べられたその手を、分かっていながら握り返そうとはしなかった。

 これは、甘えだ。

 どうして、今、こんな思い出が頭の中に浮かんだのか。

 きっと今、あの時の状況に似ているんだ。

 甘えている自分と、怒っているレオン。

 レオンはサヤカみたいに怒鳴ったり、殴ったりはしてないが。

 ーー…あの時、サヤカに、何て言ったんだっけ。



      『ごめんね』




「ごめんね、レオン…」



 あの時と同じように、凛々子はレオンに謝る。

 頬杖をついていたレオンは、ゆっくりと振り返り、こっちを見た。



「ごめんなさい…あたし」

「大丈夫だよ。顔、見りゃ分かる」



 こっちを見上げ、レオンは少しだけ、笑顔を作った。

 凛々子はまた、泣きそうになる。

 どうして、レオンは。

 こんなに強くて、そして、優しいのか。

 あたしは、それに見合うだけのお返しを、この人に出来るだろうか?

 いや、違う。

 出来る限り、やれる事をやろう。

 レオンの為に。

 そう思った時、喫茶店の窓が、突風に煽られたみたいにガタガタと揺れた。

 だが風は吹いていない。

 向こうを見ると、テルラの人間達が、もう大分この喫茶店まで近付いてきている。

 頭痛は治まるどころか、増す一方で。



「大丈夫か?」



 ボックス席から立ち上がり、レオンは言った。



「平気」



 ふらつきそうになる足にぐっと力を入れ、凛々子は答える。

 この喫茶店の、木目調の格子窓が、ガタガタと揺れる。



「最初はね、あたしの現実世界で、この喫茶店の店員のお兄さんが、魔法の言葉をくれたの。“君なら出来る”って…その言葉に勇気づけられて、あたしは、あの日レオンに会う事が出来た…」



 それまではずっと、逃げていたのに。

 アルマから、そして自分の過去から。

 現実から目をそらして、ずっとそれを受け入れようとはしなかった。

 だがレオンは、凛々子の過去を知っても、しっかりと受け入れてくれた。