「だってこれ、あたしにとっては夢でしょ? それに俺達って?」

「今いるこの目に見えている場所と景色は確かにオマエの夢が造り出している。だけどな、ここはちゃんと独立した世界“テルラ”なんだ。“テルラ”は俺達が生きている世界で、俺達って言ったのは、俺が住んでいる世界で生きている人達って言う意味だよ」



 大真面目に、レオンは言う。

 そんな様子を見るとどうやら、タチの悪い冗談ではなさそうだった。

 ――…それに。

 この台詞を言った時のレオンの表情は何処か苦しそうで、そしてその瞳は、何とも表現しようのない悲しみに満ちていた。

 そんな顔をされたら…これ以上、何も言うことは出来ない。

 それにもういい加減、考えるのも疲れた。



「まぁ、要するにレオンはテルラの人間ってことね」



 なるべく簡単に考えようと、凛々子はわざと軽く言ってみた。

 言いながらも、レオンが言った言葉の意味を、もう疲れ切っている脳みその中でかき回して。

 この場所は、確かに凛々子が知っているいつもの海岸に見えるが、実はレオンが住んでいる世界“テルラ”である、と。

 そして、その“テルラ”は“アルマ”と呼ばれている黒い影に襲われている。

 いや、ちょっと待てよ?



「あの黒い影…アルマってさ、どうしてあたしを追い掛けて来るのよ?」



 凛々子はれっきとした地球人で(テルラが他の惑星なのかどうかは知らないが)、テルラなんて国(?)は見たことも聞いたこともない。

 なのに何故“アルマ”は、そんな関係のない凛々子を追いかけてきたりするのか。

 …ついでに言うと、あからさまな“敵意”を持って。

 その理由も、レオンは知っていると言った。

 だがレオンは、ゆっくりと凛々子に背を向けて、足元に広がる海の景色を眺めた。



「いい世界に住んでるんだな、オマエ」



 あんなに荒れていた海はいつの間にか穏やかで、いつもと同じ見慣れた景色に戻っていた。

 凛々子はこの風景が好きだ。



「平和、なんだろ?」



 振り向いてそう聞かれて、凛々子は頷く。

 むしろ、平和じゃない世界を、凛々子は知らない。



「レオンの世界…テルラって、平和じゃないの?」

「あァ。生まれてから今まで、平和な時間なんて一度もなかった。そして、これからも、な」

「どうして?」



 潮風になびかれる髪の毛をかきあげながらこっちを見ているレオンに、凛々子は聞いた。

 すっとその手を下ろし、レオンは少しだけ声を低くして、凛々子の質問に答える。