また、おかしな言い回しをしている。

 あたしの現実での生活を、大体想像出来る?

 今日初めて会った、夢の中のキャラクターに?



「どういう事よ。何であたしがあんな気持ち悪いモノに追われなきゃならないのよ?」



 少しずつ、このレオンという男と話をするのに抵抗がなくなってきた。

 岩場に腰掛けたお尻が少し痛くて、凛々子は立ち上がる。



「オマエは、あれが何に見える?」



 凛々子を真っ直ぐに見上げながら、崖の下を指差してレオンは言った。

 崖の下には、あの黒い影が蠢いていた。

 だが、ここまで登ってくる様子はない。

 凛々子は改めて考える。

 追いかけてきたのは、ただの黒い影だ。

 だが、凛々子は今までに一度でも、あの黒い影を“本当に”見たことがあったのかと聞かれると、答える事が出来ない。

 ここ1ヶ月、毎日あれに追いかけられているのに、まともに黒い影を見たことがないからだ。

 いつも、逃げてばかりで。

 そう思ったら、凛々子は胸がチクリと痛んだ。

 自分は、逃げている。

 夢でも、逃げている。

 沈んだ表情を浮かべる凛々子を見て、レオンは静かに言った。



「今見てみろよ。大丈夫、取り敢えずここまで昇ってはこねェよ」



 レオンの言葉に、凛々子は恐る恐る崖の下を覗き込んだ。

 こんなにはっきりと月明かりが照らしているのに、崖の下で蠢いているのは、ただの黒い影…ではなかった。

 よぉく見ると、全体的に黒く見えるが、1つ1つは黒い色をした何か…。

 人間のように見えなくもないが。



「何あれ…生き物?」

「あれは“兵士”だよ。俺達の世界を襲っている、な」

「兵士?」

「そうだ。俺達はあれを“アルマ”って呼んでいる」

「アルマ…」



 凛々子はさっきから、バカみたいにレオンの言葉をおうむ返しに呟いている。

 そんな自分が何だか情けなかったが、聞きたいことはたくさんあるのに、それが言葉にならないのだ。

 そんな凛々子を見て、レオンは立ち上がると、崖の下に視線を送った。