真っ暗な夜空に浮かぶ大きな満月を背景にして、その横顔は真っ直ぐに上を見つめている。

 スッキリとした顎のライン、細く通った鼻筋。

 それとは逆に、その瞳は少しだけ垂れ下がった、くっきりとした二重だ。

 一般的に言う、キレイな顔立ち。

 その横顔は、男性というよりはまだ少年のようだった。

 でも、その口の悪さって言ったら。



「ったく…どんだけトロいんだよ、オマエ」



 いきなり不機嫌そうにそんなことを言われて、凛々子もムッとする。

 トロいなんて言われたのは、生まれて初めてだ。

 これでも一応、バスケットで県選抜選手に選ばれたくらいの実力は持っている。

 昔から運動神経抜群と言われて来たのだ。

 まぁ、選抜は、断ったのだが。

 …いや、そんな事よりも、今は。

 この小生意気な少年は、一体何処まで飛んでいくつもりなんだろう?

 ふと、また下を見て、凛々子は息を飲む。

 地上は遥か下、とんでもない高さまで昇っている。

 もう少しで、雲まで届きそうだ。




「…ち、ちょっと高すぎ…!!」



 いくらなんでも。

 しかも冷静に考えたら、何で空なんて飛んでいるのか。

 こんな得体の知れないヤツと、手なんて繋いで。

 そう思ったら急に、怖くなってきた。



「ぅわっ…!?」



 今まで安定していた飛行だったのに、少年はいきなりバランスを崩してしまう。

 凛々子は焦る。

 こんな高さから落ちたら…てか何で飛んでるの!?

 今更ながら、凛々子はこの状況が信じられない。



「バカ、言っただろ、怖がるなって…うわっ!?」



 少年が上ずった声を上げる。

 途端に、飛行機が失速したように、ガクンと身体が落下を始める。



「いっ…いやぁぁぁっ…!!」



 凛々子は叫びながら必死で、繋いだままの手にしがみつく。

 グローブをはめたその腕は、落下しながらも、ぐいっと凛々子の身体を引き寄せて。

 今度は両腕でしっかりと、凛々子の身体を抱き締めた。