(先になにか、お母様から逃げる策を考えておかなきゃ。)
そんなことを考えて部屋まで続く廊下を歩いていると、前から1人の家政婦さんがこちらに向かって歩いてきた。
私つきの家政婦さんの中で一番年が若い坂本さんだ。
どうやら下でのことが、私つきの家政婦さんたちにももう連絡が入ったようだ。
(わざわざ私を迎えに行くように言うとしたら・・・。)
考えたすえ、溝口しか思い当たらない。
きっと私の胸の痛みを心配しているのだろう。
部屋にたどりつく前に倒れないかどうか。
きっとそんなところだ。
坂本さんは、私が立っている一歩手前のところまで来て立ち止まり、
「おかえりなさいませ、お嬢様。」
そう言って頭を下げた。
「ただいま。」
あえて迎えに来たことは触れずに、坂本さんと一緒に部屋へ向かった。
途中で奏志朗の部屋の前を通り過ぎたが、部屋に人がいる気配がしなかった。
(やはりまだ帰ってきていないか。)
長い廊下を歩き続けると、やっと自分の部屋に着いた。
部屋の前には私つきの家政婦さんが5人待っていた。
「おかえりなさいませ。」
そう言って5人は頭を下げた。
「ただいま。帰り遅くなってごめんね。」
お母様には言えなかった一言を付け加えた。