君に出会わなければ…







何も言わずにダイニングから出て行く、奏志郎を心配そうに目で追う母。



構う事なく、運ばれてきたデザートを食べる父。




ぼーっとそんな風景を観察する私。
完全に傍観者な私。



悲しくはない。
ただ無性に虚しくなってくる。




「茉莉、食べないのか?」



私の様子の変化に気づく人はいない。
私は完璧な仮面を被っているから。




無邪気な笑顔を向ける父。



この人も一生気づかないだろう。



「いただきます。ニコ」




「真希子、茉莉は一段とお前に似てきたな。若い頃にそっくりだ。」




「あら、あら。すっかり茉莉贔屓になってきちゃって。」



少し膨れる母。



私はそろそろ退散する時間だ。


普段こんなに早く父が帰宅することはない。
母も話す事はたくさんあるだろう。



はやく食べ終わろう。



そう思い、父に勧められたフルーツを口に入れようとした時だった。