「トヨ婆なら安心です。」
「勿体無いお言葉、恐れ入ります。
このトヨも、お嬢様とまたこうして話せて嬉しゅうございます。
最近は木村たちに任せっきりで、お嬢様のお世話もできませんで。」
トヨ婆は私の小さい頃の世話係でもあった。
礼儀や、マナーは全てトヨ婆から学んだと言っても過言ではない。
お母様が教えてくれなかったわけではない。
グループに生まれた長女として、上から下まで完璧ではないといけなかったのだ。
「トヨ婆のおかげで、私の完璧な仮面を今でも剥がさないでいられています。」
完璧を装う仮面。
トヨ婆は私が感じていたプレッシャーをわかっていて、小学校へ入る時にある事を教えてくれた。
それは完璧になりきらなくていい。
そういう装いをしていると思って過ごせばいいのだと。
溝口の前や、柚葉の前では素の自分を出していいと。
そしたら少し気が楽になる。
そう教えてくれた。
だからこの数年はずっと完璧な自分を装い、それを周りに見せてきた。
両親にですら偽りの自分を見せてきた。