使用人の女性が、温かい飲み物まで運んで来て、ロニは腰が抜けそうになるほど驚いたのだ。

 どんどん好待遇になる自分の環境に、彼女は余り素晴らしくもない頭で考えた。

 彼女の主に向ける好意の大きさの表れが、代理としてロニに向けられているのではないか、と。

 そして、それは間違っていなかった。

 騎士の娘は、ついに子爵家に嫁ぐことが決まったのである。

 ロニは、それはもう喜んだ。

 これまで、一度も配達を失敗することなくこなした結果が、主の幸福につながったのだから。

 そして、そんな精神的な喜びの他に、もうひとつの喜びがあった。

 とても綺麗な長靴を、主からもらうことが出来たのだ。

『いままで、よく働いてくれましたね』

 自分の給金では、一年間働いたってきっと買えないだろう上等品だ。

 これで、また雨の日に配達に行っても、靴がぐしょぐしょで気持ち悪いことなんかない。

 そう思ったロニは、同時にもうその必要はないのだと理解してしまった。

 子爵家に嫁ぐということは、主人は思い人と一緒に暮らすということだ。もはや、手紙を運ぶ必要はなくなる。

 それ以前に、侍女は誰も連れずに嫁いでいくという。

 ロニの配達業は、これで終わり──のはずだった。