すると、彼女は顔を赤らめながらも、困惑した瞳をそらした。

「わ、わからないんです……こういうことは初めてで。どう答えたらいいのか……」

 無意識なのか、彼女はファウスの手紙を胸に抱くように引き寄せる。

 そんなロニの姿は、彼に恋慕の情を募らせるだけだった。

「私のことが嫌いか?」

「いいえ」

 問いに、即答が返される。とんでもないと言わんばかりだ。

「他に好きな男がいるのか?」

「いいえ」

 かぶりが振られる。

「私と会えなくなるのは寂しいか?」

 みっつ目の問いで。

 ロニの、カワセミの背色の瞳が揺らいだ。

 泣きそうな顔になる。

「は……い」

『いいえ』とは違う、とぎれた言葉。

 それに引きずられるように、ファウスは彼女の方へと足を踏み出した。

「それなら」

 彼女の両肩に手を乗せる。

「それなら……答えは『はい』だ」

 彼の髪から落ちた水滴が、見上げたロニの頬に落ちる。

 彼女の、唇が小さく動いた。

 声はない。

 しかし、その唇が『雨(プリュイ)』という言葉を伸ばして、『プリュゥイ』となぞったのを、ファウスはしっかりと見ていた。

『ある音』に部分的に似ていてドキリとしたが、そうでないことを理解すると、なおさら自分が焦れていくのが分かった。