「手紙を……あぁ」

 ロニに向けて伸ばしかけた手を、ファウスは一度イラついたように引っ込めて、手袋を外し始めた。

 ぐしょぐしょの手袋のままでは、手紙の文字は一瞬にして読めないほどにじんでしまうと思ったのだろう。

 最初の頃の彼はイライラした気配を見せることがあったが、手紙を交わすようになってからはそんなことはなかった。

 久しぶりの態度に、ロニはびくっとしてしまいながらも、手紙を差し出す。

 しかし、まさか目の前で封を切られるとは思ってもみなかった。

 自分のいるところで手紙を読まれるというのは、こんなに恥ずかしくていたたまれなくなるものなのだと、ロニは生まれて初めて知ることになる。

 失礼なことは、書いていなかったはずだ。お礼にもお別れにも、書ききれないほどの心をこめた。

 針のむしろの上で、ロニは彼が次に言う言葉を、視線を床に落して、ただじっと待つだけ。

 カサ、と。

 紙が動いた音がする。

 彼が手紙を読み終わったのだろう。

 ロニは、顔を上げる勇気も持てないまま、ただファウスの足元を見ていた。

「これだけか?」

 棘のある言葉に、彼女の心臓は飛び跳ねた。

 何か足りないと言わんばかりの言葉に、ロニは必死に自分の書いた手紙を思い出そうとした。

「あ、ありがとうございますと……その、さ……さよならを、お伝えしたくて……」

 きちんと伝わらなかったのだろうかと、彼女はもう一度、今度はそれを言葉にした。喉が詰まって、つっかえつっかえになってしまったが。

「ああ、もういい」

 ぴしゃりと、イラ立った声がロニの言葉を切り裂いた。

 叱られている気分になり、彼女は自分が情けなくなっていく。

 別れの言葉ひとつ、上手に言えない自分が、嫌いになってしまいそうだった。