次の雨の日は、翌日だった。

 二日続けて雨だったのである。

 ファウスは、朝から落ち着かない気分に襲われ続けていた。彼が子爵令嬢に送った手紙が、正しく働いたかどうかが気になって仕方がなかったのだ。

 もし、逆に作用したならば、もうロニが手紙を配達してくることはないだろう。

 その心配のせいで、雨の日の彼の主と同じように、自分の手を指で叩いたり、無駄に部屋を歩き回る羽目となる。

 遠くで門番が門を開ける音を聞いた時には、既に彼は玄関に立っていた。

 重厚な扉の向こうから、雨の降りしきる音とはまた違う、不揃いな水滴が、ぽたりぽたりと落ちる音が伝わってくる。

 ファウスは、表情を動かさないように気をつけながらも、己の胸が速くなっていくのが分かった。

「こんにちは、手紙を持ってきました」

 ノックノック。

 声と扉を叩く音が聞こえた直後──彼は自分の全身が、ほっとしたのが分かった。

 聞き慣れた、ロニの声がそこにはあったからだ。

 安堵と深い喜びが、彼の心を満たして行く。その気持ちのまま、ファウスは玄関の扉を開けた。

 灰色のフードつきレインコートとは不似合いの、やたら上質な編み上げの長靴の女性が、そこには立っていた。

 今日の雨は、少しひどい。

 レインコートや顔からは、それを知らしめる水が多く滴っていた。

 彼女はファウスを確認すると、にこりとカワセミの背色の瞳を細めて笑みを浮かべる。

 そんな彼女を愛しく感じ、いますぐその水滴を拭いてやりたい気持ちになるが、彼はぐっとそれを抑えた。

 それから、いつも通りの儀式が始まる。ゆっくりとレインコートを脱ぎ、ハンカチで拭いていく姿を、ファウスは黙って見詰めた。イライラなんて、心の中のどこにもない。

 余りに彼女を見詰めていたせいで、自分の主がすぐ真横に迫っているのにさえ気がつかなかった。

「確かに、受け取りました」

 ようやく彼女から受け取った手紙を、そのまま簡単に隣に奪わせたファウスは、主が二階へ上がって行くのを見送る。

 いつもなら、ここで少々情けない主の態度に対してため息をつくところなのだが、今日の彼は違った。

 主の気持ちが、とてもよく理解出来たのだ。

 彼に、それを理解させたのは──再び玄関の彼女の方に向き直ったファウスは、驚きに目を軽く見張った。